Translators: Takako Oishi, Anna Mizunuma, Rumi Ihara
著:アンドレア・ブルーセラ・フィネガン
訳:日米ギフテッド教育協会(大石貴子・水沼杏奈・井原留美)
2E児やギフテッド児は、同年齢の一般的な発達の子どもたちよりも、学校において多くの困難に直面することがよくあります。これは、彼らの複雑な認知的特性によるものです。その子の学習や感覚のニーズに合わない不適切な環境は、学校生活を難しくします。また、学校の規範に無理に適応しなければならないという圧力、望まない孤立、頻繁に発生する友人との健全でない口論や人間関係、性差別、さらにはいじめなども、ギフテッド児が学校で日常的に直面する困難の例として挙げられます。さらに、教師と生徒の関係が疲弊してしまうこともこのカテゴリーに含まれ、それらが子どもの心身の健康に深刻な悪影響を及ぼす可能性があります。
ギフテッド児や2E児のなかには、学校だけでなく、家庭においてもさらなる深刻な困難を抱えている子どももいます。例えば、暴言、心理的虐待、身体的虐待、ネグレクト、家族の離別・離婚・親の死、貧困、新型コロナウイルス感染症の長期的影響、精神疾患を抱える親の存在、人種差別などが挙げられます。
では、才能あふれる個性的な子どもたちが、学校内外での困難に対処し、より良いレジリエンスを育むために、どのような支援ができるでしょうか?
レジリエンスは、遺伝(生まれ持った特性)と環境(育ち)の相互作用によって形成されます。学校心理学が専門のベス・ドール博士とサミュエル・ソング博士は、子どもが困難を乗り越えるためには、以下の三つの主要な要素が必要であると述べています。
1) 思いやりがあり、心の支えとなる大人が、最低一人いること
2) 自主性を育む機会が豊富にあること
3) 子どもの希望と楽観性を育む、強みを伸ばす教育(ストレングス・ベースド・ラーニング)
これら三つの要素が、学校内外において子どもが困難を乗り越え、成功するためのカギとなります。本記事では、高い潜在能力を持つニューロダイバージェントな子どもたちのレジリエンスを培うためのアイデアを紹介しています。ただし、子どものレジリエンスを考える際には、「レジリエンスの天秤」という包括的な視点を持つことが重要です。子どもの幸福感やレジリエンスを支えるポジティブな経験が、ネガティブな経験よりも多いほど、たとえ逆境があっても心の健康、学業の成功、人間関係の充実、そして安心感を持ちやすくなります。
発達の重要な段階においてどのような経験をしたかが、子どもの遺伝子の発現に影響を与えます(図参照)。時間とともに、支えとなる人間関係や「サーブ・アンド・リターン(訳注:養育者が子どもの行動に反応を返すこと)」の経験が、支点(図の岩が支点を表しています)をよりレジリエンスの高い方向へと移動させます。これにより、脳の構造が強化され、将来的に大きな人生のストレスに対してより適切に対処できる力が育まれます。

思いやりがあり、心の支えとなる大人が、最低一人いること
ハーバード大学の「子供発達センター」(Center on the Developing Child, n.d.)は、「レジリエンスの高い子どもに共通する最も重要な要因は、少なくとも一人の、支えとなる親・養育者・その他の大人と安定した信頼関係を築いていることである」と述べています。子どもはいつも、日々の困難やストレスに対処する大人の姿を注意深く観察しています。特に、共通の興味やキャリア目標を持ち、困難な状況でもレジリエンスを発揮する姿を示せる大人がそばにいると、人生の試練を乗り越えるための戦略を多く学ぶことができます。このような貴重な存在は、音楽の先生、スポーツコーチ、ベビーシッター、あるいはその子と共通の関心を持つ友人家族など、多様な形で現れます。ニューロダイバージェントな子どもにとっての理想的な関係は、共通の興味を持つメンターと好きなことに没頭する時間を共有できたときに築かれやすくなります。
安定した支えとなり、導いてくれる親やメンターの存在は、すべての子どもにとって有益ですが、ギフテッド児や2E児にとっては、社会的・情緒的に生き抜くために特に重要な存在です。
「もし彼らに何かを成し遂げてほしいと願うなら、その目標を達成している人とつなげる必要がある。」
「ギフテッド児にとって最も価値のある経験の一つは、個人的な価値観や特定の興味、時間、才能、スキルを惜しみなく共有してくれるメンターとの出会いである。」
保護者・養育者へのアドバイス
● 子どもが楽しめる活動を通じて、定期的に一対一の「特別な時間」を作ることを心がけましょう。
● 子どもにとって、親や養育者は最も身近なロールモデルです。自分が困難に直面したとき、どのように反応しているかを意識してみましょう。あなた自身の行動や態度は、子どもに真似してほしいものですか?
● 自分自身の幸せと、精神的・感情的・身体的な健康を大切にしましょう。あなた自身が最高の自分でいることが、子どもにとっての指針となります。
● コーチ、教師、宗教指導者、課外活動のリーダー、家族など、さまざまな大人が子どもにとって指針となる存在になり得ます。子どもの人生に複数のポジティブな大人がいることで、そのうちの誰かと深くつながる可能性が高まります。
● お子さんの特別な興味を手がかりに、同じことを楽しむ前向きな大人を見つけましょう。共通の関心があることで、子どもはその人から学びたいと思うようになります。
『アニマルスクール 個性と強みのものがたり』
リン・リム氏とアダム・ラニンガム氏によって制作された動画『アニマルスクール個性と強みのものがたり』は、ギフテッド児や2E児が学校で直面する典型的な困難を描いています。
動画の中で、オカピは、周囲の生徒と違う行動をとるせいで、学校でからかわれていました。そこには、オカピと考え方が近い頼れる思いやりのある大人や、「違うことは素晴らしいことだ」と示してくれるロールモデルが存在しませんでした。オカピの学校外での生活は詳細には描かれていませんが、「違うこと」に苦しんでいたと推測されます。なぜならオカピには、ロールモデルになるような、強く、個性的で、レジリエンスのある存在がいなかったからです。その結果、オカピの「天秤」には、人生におけるネガティブな要素が積み重なってしまいました。
一方で、クジャクシャコは、幸運にも家族が近くで支えてくれるメンターの役割を果たしていました。このキャラクターにとっては、不登校になることが最善の選択であり、家族の支えこそが成功の鍵となりました。学校では伸ばすことができなかった才能や特性を、家庭の中でじっくりと育むことができたのです。クジャクシャコは、数少ない2E児の成功例として描かれています。ホームスクーリングによって適切な環境が提供され、大人が才能と個性を十分に支援することができました。このキャラクターの「レジリエンスの天秤」は、ポジティブな要素の方に大きく傾き、レジリエンスが育まれたのです。動画では「学校の外には、クジャクシャコの情熱と才能を信じてくれる人たちがいました。その人たちに励まされてクジャクシャコは喜びを見つけました」と 語られています。
自主性を育む機会が豊富にあること
自主性と自己効力感(自信)を育む環境や機会は、ギフテッド児やニューロダイバージェントな子どもにとって非常に重要です。子どもたちに、失敗や間違いを恐れなくてもよいということを教えましょう。うっかり台無しにしてしまっても大丈夫です。それは人間として自然なことで、成長する過程でもあります。ただし、その失敗を自分のものとして受け止め、問題を収拾する方法を身に着け、さらにその失敗から大切な教訓を学んでいくことは必要です。
親が必要以上に手助けすることなく、失敗を振り返る経験を積むことで、子どもはレジリエンスを育むことができます。多くの場合、親は、子どもが困らないように先回りして問題を解決しようとします。例えば、「ああ、また宿題をキッチンのテーブルに置き忘れてる!学校まで持って行ってあげよう」といった場面です。親は、こうした小さな問題が生む苦痛や困難を防ごうとします。多くの親は良かれと思って行動しています。しかし、子ども自身が対処できる問題に対して自分で解決する機会を与えなければ、長い目で見たときに、より大きな傷を負うことになるかもしれません。こうした問題解決の練習が不足すると、より大きな問題が生じた際に対処できなくなってしまいます。親が子どもの問題を代わりに解決し続けると、「あなたには自分で解決する力がない」というメッセージを無意識のうちに送ってしまうのです。
成長に応じて、子ども自身が少しずつ困難に向き合い、解決する経験を積むことが重要です。ハーバード大学の「子供発達センター」(Center on the Developing Child, n.d.)も、「レジリエンスは子ども自身の内側だけで生まれるものではなく、子どもと環境との相互作用によって育まれる」と述べています。子どもたちが自らの環境の中で学ぶためには、自主性が必要です。確かに、学ぶ過程で痛みを伴うこともあります。しかし、悲しみや痛みを経験しなければ、人生の幸福に心から感謝する気持ちにはならないでしょう。多くの親が願うのは、最終的に子どもが本当の幸福を知ることではないでしょうか。
保護者・養育者へのアドバイス
● 小さな失敗から大きな失敗まで、自分自身の経験を子どもに率直に話してみましょう。そして、その失敗から学んだことや、失敗を恐れない方法を伝えてください。失敗には大切な役割があり、失敗の瞬間こそがレジリエンスを築く機会であり、時にはより良い結果につながるということを示しましょう。
● 子ども自身が問題に気づく機会を与えましょう。最初は年齢に応じた適切なサポートを提供しながらも、最終的には子どもが自分で考え、最善の方法を決められるよう促すことが大切です。子どもを支えながらも、自分で選択できるような余地を残すことは可能です。話すよりも聞くことを意識し「どうすればいいと思う?」「なぜそう考えたの?」と問いかけてみてください。
『アニマルスクール 個性と強みのものがたり』
『アニマルスクール 個性と強みのものがたり』の中で、フクロモモンガは、教師から「落第生」のレッテルを貼られてしまい、残念ながら自分自身もそれを信じ込んでしまいました。物語ではその後の展開は語られていませんが、もしも支えてくれる大人がそばにいて、「失敗は見えない形で将来の糧になるかもしれない」と示してくれていたらどうでしょうか。フクロモモンガ自身、成功への別の道を見出せたかもしれません。それでもフクロモモンガは、「落第生」のレッテルをアニマルスクールの時と同じように捉えるでしょうか?困難に直面することは確かに大変なことです。しかし、その困難にどう向き合い、どう乗り越えるかを知らないことの方が、さらに苦しいことなのです。
愛らしく意志の強いマルハナバチは、非同期発達を抱え、誤解されがちな生徒でありながら、非常に高いレジリエンスを持つキャラクターとして描かれています。マルハナバチは、まだ子どもですが、いじめや周囲の否定的な意見に負けることなく、楽観性と希望を持ち続けることができました。マルハナバチの生い立ちについて、ここで述べたレジリエンスの三要素が備わっていたかどうかが気になります。
子どもの希望と楽観性を育む
ギフテッド児や2E児のレジリエンスを育む三つ目のポイントは、「希望」と「楽観性」を育む多様な活動を組み合わせることです。ストレス解消になる趣味や健康的な活動を行うことで、心が回復し、困難を乗り越えられることがあります。レジリエンスを良い方向へと傾けることができる活動としては、定期的な運動、マインドフルネスの実践などがあげられます。その他にも、クラブやプログラムに参加して、実行機能(目標達成のために計画する力)や適応能力、自己制御能力(自分の感情や行動を適切にコントロールする力)を育んだり、ストレス軽減を促したりするのも効果的です。大人と同じように、すべての子どもには「エネルギーを奪う」のではなく「エネルギーを与えてくれる」活動の時間が必要です。特に2E児やギフテッド児にとっては、才能や強みを重視したアプローチが不可欠です。自分の興味・関心に没頭できる活動は、自己肯定感を高め、心と魂をリフレッシュさせ、困難な状況の中でも「安心できる居場所」を提供します。さらに、文化的・宗教的な支えがある環境も、子どもに安心感や帰属意識を与え、レジリエンスを高める要素となります。
保護者・養育者へのアドバイス
● ポケモン、昆虫採集、演劇、楽器演奏、ダンジョンズ&ドラゴンズ、水泳――どんな興味であっても、それを存分に楽しめる環境を整えましょう。同じ情熱を持つ仲間とつなげてあげましょう。
● 運動やマインドフルネスを、家庭での習慣として取り入れてもよいです。例えば、寝る前に子ども向けのマインドフルネスアプリを活用し、ポジティブな言葉やリラクゼーションの練習を取り入れることができます。また、夕食後に子どもと一緒に短い散歩をするのが日課になれば、親子ともにメリットが得られます。
『アニマルスクール 個性と強みのものがたり』
『アニマルスクール 個性と強みのものがたり』に登場するワニのガビアルは、本来得意とする泳ぎに十分な時間を割くことが許されず、レジリエンスを育む機会を奪われてしまいました。もし学校が才能を重視した学習アプローチを取り入れていたら、どのように変わっていたでしょうか?ガビアルは、新しい泳ぎ方に挑戦することを楽しみながら、水中を登る技術を身につけることができたでしょうか。
結論
学校は、しばしば子どもが困難に直面する場となりますが、ポジティブな家庭環境と同様に、回復やレジリエンスを育むための重要な介入の場となり得ます。
ギフテッド児や2E児は、理解あるメンター、年齢に見合った自主性、そしてレジリエンスを育む要素に支えられると、結果として、全体的な幸福感が向上します。すべての親が願うのは、誤解されがちな「先駆者」や「独創的な存在」として奮闘する子どもたちが、適切な支援と励ましを受け、困難を乗り越えるための道具を手にし、「自分はできる、必ず光が見える」と信じられるようになることです。ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェはこう述べました。「人生は戦場だ——私を殺さないものは、私をより強くする。」ギフテッド児や2E児も、人生においてポジティブな要素がネガティブな要素を上回る環境に身を置くことで、より強く成長することができるのです。